特集 大林宣彦 サウンドトラックの玉手箱
01 HOUSE/ハウス ハウスのテーマ ゴダイゴ
02 瞳の中の訪問者 宮崎尚志
03 天国にいちばん近い島 朝川朋之
07 Lovers of the World〜マンダム 男の世界 Jerry Wallace
09 あした さようならのあした 岩城太郎
10 あの、夏の日 とんでろ じいちゃん 學草太郎
after report by johnny SHIDA
当番組二度目の大林宣彦監督特集です。去年は番組開始早々、4月10日に監督の訃報を受け、4月19日には追悼特集を緊急で組ませていただきました。
seaside theatre #3 2020/4/19
この時は本当に混乱状態で、大林監督が亡くなられたという事実を受け止めるよりも、とにかくこの番組を作り上げる事で気を散らせて、襲いかかるような絶望を紛らわせていたように思います。
早いものでそれからもう一年です。つまり番組も同時に一周年を迎えるというタイミングで、ごく自然に大林監督を偲ぶ機会にもなっていくわけです。おそらく番組が続く限りはこの機会を大切にしていきたいと思っていますので、リスナーの方々にもせっかくなのでどんどん大林監督の作品群をご紹介していきたいなと。なのでこの一周忌特集では前回お送り出来なかった作品のサウンドトラックから、再び多々編纂してみた次第です。尾道作品としては「時かけ」がマストですが今回は原田知世作品という切り口で「天国にいちばん近い島」をチョイスしたり、“A MOVIE” からの脱却から生まれたプログラム・ピクチャー系である「漂流教室」や「水の旅人 侍KIDS」などのダイナミックな楽曲も紹介させていただきました。さらに前回も紹介しました、知る人ぞ知る大林監督の個人映画時代のサウンドトラックも今回ピックアップしました。こちらは作曲とピアノ演奏を大林監督自身が担っており、消失してしまっていた8ミリ映画の音源を自ら再現、完全独奏した貴重な音源です。かつてはCDでもリリースされていましたが残念ながら長らく廃盤となっていたので、このタイミングで配信リリースが実現しました (バンドル・ダウンロード/ストリーミング)。監督の多才極まりないこの偉業を、今回のOAで興味を抱いた方は、配信でも是非堪能していただければと思いますね。
あとはやはり「新・尾道三部作」の連続OAをやってみた事が大きいでしょうか。90年代からスタートした新たなる尾道連作は「ふたり」「あした」「あの、夏の日 とんでろ じいちゃん」という、旧・三部作とは内容的にもやや一線を画するものという印象があるこの三作品。実のところ、個人的には「ふたり」「はるか、ノスタルジィ」「あした」が厭世観を持った珠玉の三部作と捉えていて、90年代後半からアプローチが始まったと感じられる、“新たなる個人映画的アプローチ” のスタートダッシュが、“脱・尾道” を感じさせるあえての尾道作品「あの、夏の日」であるとも思っている次第でして。便宜上(というか実質的な謳い文句としての)、尾道ロケ作品がこれにて三作完結、と示されたただけであって、本当はこの90年代に大林監督が体験して考えてこられた事は、寧ろさらなる “個への回帰” であり、商業スタイルから離れる事による、よりパーソナルな映画製作への扉を開拓していく事ではないかと。
だとしたら「新・尾道三部作」というアプローチではなく、また違うコンセプトでまとめればいいのではないかと思われるかもですが、まさにその90年代末に発表された重要作である「あの、夏の日」のサウンドトラックこそを紹介したかったので、通常謳われていた新・尾道三部作にてまとめたという事があります(ややこしいですが言い訳ではありません…)。「あの、夏の日」の音楽を聴いた時、これは久々に真なる大林サウンドの登板だ!と興奮したのですね(当時イマジカにて試写で観ました)。それは大林監督が作曲して宮崎尚志氏が編曲した16ミリ作品「廃市」のサウンドトラックの印象にとても近いものと感じた記憶が今でもあります。つまりその原点は8ミリ映画「絵の中の少女」や「形見」などで聴ける純粋な大林サウンドと言えるものだとも感じたわけで、クレジットを見ると、“學草太郎(まなぶ そうたろう)”とあって、こんな方は知らないな、さては…! と思い確認してみるとやはり大林監督自身だったわけです。道理で真骨頂なサウンドトラックだったわけでして、あまり知られていないのではないかと思われる「あの、夏の日」の音楽を、とにかく今回は届けたいと、そう思いながらプログラムに一ブロックとして組み込んだわけでありました。そうなると「新・尾道三部作」として編纂する方が座りが良かったと…(まぁ、理屈に近い言い訳ですかね…笑)。
そして、「野のなななのか」のPascalsによるリラクシンでオーガニックなサウンドトラックですね。このバンド(ユニット?)の音楽は、 “個の重要性”や“ローカライズの意義”などを継続して感じさせてくれてきた前後する作品群に、具体的サウンド・アプローチとして収まってくれたという気持ちをいただくに至るのです。これはまぁ個人の感想でしかないのですが、大林監督の道程では「ふるさと映画時代」と称される流れとPascalsのスムージーなサウンド、そのノリが遂にぴったりとマッチしたなぁと、映画を観た時に強く感じたのですね。Pascalsの楽曲の登場は「この空の花」からでしたが、「野のなななのか」ではより強く響いたのです。そして、ふるさとと寄り添いながら映画を紡いでいく、とは言えそこそこの予算をかけられて製作された劇映画の数々ですが、00年代から10年代を駆け抜けた大林映画たちは、自分的には「新・個人映画時代」として見事に統一化されているように見えるのです。そのリズムと音色と旋律とネイキッドな響きが、2000年以降の大林映画を語るには避けられない大切な存在として聴こえていたのだと思うのですね。
で、勝手に「新・個人映画時代」などと称してしまいましたが、しかしだからこそまだまだ評価されるべきなのになかなか広がりを見せられていない作品も多々あるんですね。中には劇場公開も短期間で終わった作品もありましたし、ビデオグラム化も遅れて届くような作品もありました。なので今後はそんな時代の作品たちとそのサウンドトラックも含めて、どんどん紹介し、次に繋いでいきたいと思ってるのです。リスナーの方々からは「時かけ」が聴きたい、「ふたり」が、「デンデケ」が聴きたい、というご希望もあるとは思いますが、もちろんそういった大林スタンダードも塗しながら、こんな素晴らしい作品もあるからどうぞ!と、まだまだ様々なメニューをご案内していきたいと思っています。
しかし番組の中でも呟きましたが、まだどこかで大林監督が新作を撮られているかのような、そんな気持ちが絶えず沸き起こるのです。いや、しかし多分おそらく、今もまたどこかで撮っていらっしゃるのでしょうね。いつか必ずその新作を皆して観れるのではないでしょうか。大林監督はそんな奇跡すら、これからも見せてくれる人だと、僕は信じていたりするんですよね。
ではまた来週。次回は特集「アジア映画は長く静かな河」をお送りします。お楽しみに。
ではまた来週。次回は特集「アジア映画は長く静かな河」をお送りします。お楽しみに。
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