seaside theatre #18
2020.8.2 play list
prologue
01 インターステラー Interstellar
(Do Not Go Gentle Into That Good Night〜Cornfield Chase) Hans Zimmer
(Do Not Go Gentle Into That Good Night〜Cornfield Chase) Hans Zimmer
Featuring
特集 いつか見た未来は今
03 未来は今 The Hudsucker Proxy Carter Burwell
04 未来世紀ブラジル Brazil (Central Service) Michael Kamen
06 フィフス・エレメント The Fifth Element (Five Millenia Later) Eric Serra
07 ブレード・ランナー Blade Runner (Main Title) Vangelis
08 メトロポリス The Legend Of Babel Giorgio Moroder
from Japanese ost
11 海辺の映画館 キネマの玉手箱
別れの曲(ピアノ 大林宣彦) 〜オープニングテーマ 山下康介
別れの曲(ピアノ 大林宣彦) 〜オープニングテーマ 山下康介
epilogue
12 グッド・ウィル・ハンティング/ 旅立ち Good Will Hunting Danny Elfman(かりやんさんご希望曲)
13 ノッティングヒルの恋人 Notting Hill (Notting Hill) Trevor Jones
opening / ending
from Le Grand Bleu (Deep Blue Dream) Eric Serra
BGM
Talk To Him Eric Serra
Abandoned In The Woods John Williams
after report by johnny SHIDA
いつか見た、というキーワードは大林宣彦監督の「EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ」からの引用で、未来は今、はコーエン兄弟の映画タイトルそのままで、この二つが自分の中で無意識に合流していたのが、今回の特集タイトルです。
前々から映画の中の"未来像"に関しては漠然と興味を抱いていて、それはまさに2000年代に入った辺りから、現実が映画に追いついてしまった頃からでしょうか。かつての映画の中での未来像は空想アイディアで溢れていて、特に世代的には「バック・トゥ・ザ・フューチャーII」あたりなどはかなり楽しい世界観でしたが、昨今はより現実的な描写、つまり既に想定未来が今と重なり、単なる空想論だけでは茶番になってしまうと。するとあらゆる検証と分析を駆使し、近未来に有り得るであろう、ある程度の"予見事象"を"リアルフィクション"として物語に導入するケースが増えてきた、そう捉え始めたんですね。はい、簡単に言います。「これまだ実際は無いけど、もうちょいで出来ちゃうでしょ」というニュアンスです。
まだミニチュア撮影が普通だった「ブレード・ランナー」などから果敢にトライアルされてきた"未来像の提示"は、CG全盛になってからはその表現域の拡大からあらゆるイメージが具現化されて溢れ出し、やや食傷気味になりつつあった事も否定出来ません。だからこそ、サイエンス・フィクションの時代からサイエンス・ファクト=リアル・フィクションの時代へと提示の仕方も変わっていったのではないかと思うのですね。「マイノリティ・リポート」の非接触型スクリーンや網膜スキャナー、「A.I.」における思考成長型コンピューターの在り方などはそういう類いかなと思いながら観ていた気がします。
面白いのはそういった未来像を描いてきた映画たちも、時を経て進化していけば行くほど、その未来すら過去になっていくという事です。今描いた未来が明日には過去になる、その未来が今、という意識。映画の歴史ならではのタイム・パラドックスではないでしょうか。時が経てば古くなる、そんなの当たり前じゃんというかもしれませんが、私たちが持っていた未来への意識を思い返せば、この時間軸の反転を面白がれるかもしれません。
とにかくそんな小難しい事を考えながら、最終的にはシンプルに、未来を描いた映画たちのサウンドトラックを編纂してみようと企画を温め始めていました。するとそこに、大林監督のコロナ禍で公開延期になっていた最新作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」の公開再設定日の報せが届いたのです。7月31日。これだ、と未来映画企画をこのタイミングで放送しようと決めました。
映画「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、映画そのものがタイムマシーンみたいなものなんですね。監督はそのタイムマシーンを映画館に見立て、我々観客全てが乗客、という設定ではないかと捉えています。運転手はもちろん大林監督で、その集合体全体を"キネマの玉手箱"とネーミングしたわけです。
そこには過去、現在、未来が交錯し、因果応報と現況継続、そしてこれからの試練と希望が描かれています。この凄惨な過去が未来の姿だとしたら?あるいは現在が過去の焼き直しで、繰り返す未来はレベルアップされた過去なのでは?と、あらゆる時空の亡者となって判断が乱れていきさえします。そんな映画が、監督の追悼と共に遂に公開となる。まさにそのタイミングと意識は、いつか見た、未来は今、と繋がったわけです。
また偏屈な説明になってしまいましたが、気軽なノリでSF映画特集と捉えていただいていても全然大丈夫です。情感溢れるサウンドトラックたちが、そのメッセージをささやかに補完してくれていると思いますので…。
コンシェルジュのつぶやき…(Twitterより)
先日の"特集 波の数だけサントラを" の放送の最後に、ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演「キャスト・アウェイ」のサントラ(音楽はアラン・シルヴェストリ)をかけたのですが、このエンドロール曲は後半になると波の音と短いオーケストラの単音を繰り返すだけの、いわゆる環境音と単なる楽器音がそれぞれ独立して現れるアンビエントな構成となっていて、リスナーの方々にこういう(ある意味実験的な)曲というものは果たして受け入れてもらえるだろうか?と不安だったのですが、全く杞憂で、寧ろそのコンセプトをしっかり理解していただき、多々好評を得られたので、選曲した者にとっては本当に嬉しかったです。当番組のリスナーの皆さんの感性、素晴らしいですね。
コンシェルジュのつぶやき…(にしては長文)
北野武監督論を請われたのでちょっと考えてみました。まず異業種監督でありながら多々作品を撮り続けている事には脱帽します。他でも述べたように一時期異業種監督祭りになった時代がありましたが、北野氏は止まらずに作品を発表していて、かつそれぞれに話題性もあるし評価が高いものもあり、何より自身が映画作りを楽しんでいるように感じるんですね。それが無い人たちに映画作りは続かない。まずそこが前提にあると思います。北野氏は映画が好きで寧ろ監督に専念したいくらいなんでしょうね。その背中を押すのはやはり氏の類稀なる感性だと思います。映画監督に必要なのはその感性=ビジョンを、いかにあらゆる要素らでまとめて総合芸術に着地させるか、これに尽きると。長回しで一気に撮りたい、殺陣に頼らずリアルに表現したい、シネフィルに気取らず印象的なメロディーを付けたい、時代考証は無視してファンタジーでいきたい、などなど。北野氏には明確なイメージと映画的ビジョンがあり、それらをしっかり映像化させるディレクション力もある。でなければあれだけの個性的な作品群を連発するのは不可能だし、亜流であれば途中で失速するに決まっているからです(そういう監督もたくさんいます)。
で、作品論。これだけバラエティーに富んだ作品たち一つ一つを語ると大変ですし、自分も全て観ているわけではないので総論で。「cool」「alone」「sexism」。キーワードはこの3つかなとぼんやり思ってまして。coolは文字通りで、邦画でしっかりとこのようなクールな情景を描いてきたものはなかなか無かったのではないかと。いわゆる70年代のシネ・ノワール的なアプローチ。あるいは80年代のニューヨーク・インディペンデントな佇まい。これを北野氏がデビュー作「その男、凶暴につき」であっさり表現してしまった事は衝撃であり、一般的な受け取られ方としては当然「カッコいい」「ハラハラドキドキ」「意外すぎ」となって一気にブレイクしましたよね。
「alone」はストーリーテリングの事を称していて、主人公らが押し並べてバックボーン含め孤立しているということ。この孤独感があの独特な遠景カットや長回し、キタノブルーに発展していると捉えています。ニュー・ジャーマン・シネマの踏襲さを感じますね。そして「sexism」ですね。とても性悪説に満ちていて、どこまで観客を突き放すのか、毎回そこが興味深いんですね。これはもう北野氏の性格、人格、生き様がそのままメッセージになっているんだろうなと想像しています。こういった自走型、単独走型の映画はヌーヴェルバーグの思想とも似ていて、我がルールに決まりナシなスタンス。しかもタレントであり、お笑い芸人であるビートたけしがその術をこなす事がよりその興味深さを増幅させますし、だからこそ必然的に成立しているとも感じます。
歌も歌う、小説も書く、論評もこなす、こういった人が行き着くところは、もう「映画」しかないんです。古くはボリス・ヴィアンがそうでした。セルジュ・ゲンズブールに、伊丹十三さんも同じだったと思います。もちろん有り余る表現欲求が爆発的に昇華されるタイミングも大事なのですが、北野氏はそれすらもうまく流れを作り、波に乗ったのだと思います。そしてその波乗りが自身としてはきっとそこそこ、いや、かなり楽しい事だったのではないかと思うのです。
今週もありがとうございました。
次回8/9は特集「熱い夏、スタローンと行け!」をお送りいたします。